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低い音が鳴り、暗い部屋に激しく雨音が響いていた。
「……眠れませんわ」
柔らかい毛布を目元まで被り、少女はため息をつく。
昼過ぎから降り出した雨は嵐になり、自分の住む屋敷に休む間もなくたたき付けていた。
雷のうなる音で目が覚めた少女は、昼間に会った少年を思い出す。
茶色い髪に澄んだ蜂蜜色の瞳が印象的な幼い少年は、聞くところによると自国の王の弟らしい。フィリップ王子と呼ばれ、民には愛されている。
「王子様……フィリップ様とおっしゃられますのね。また、お会いしたいですわ」
護衛もつけずに、町に住む人々と同じデザインの服を着ていた、自分よりずっと小さなフィリップは、少女の心に強く残っていた。
「国王様の弟、フィリップ様」
名前を呼ぶ。
優しそうな笑顔を思い出した。
「お父様にお願いしてみたら、正式に会わせていただけるかもしれませんわ!」
まだ、城でのパーティに行ったことがないのを思い出し、少女は居ても立ってもいられなくなってベッドから出る。
「私ももうすぐ十四歳になりますもの。お城のパーティに出てもきっとおかしくありませんわね」
少女は満面の笑顔で寝間着の上からストールを羽織ると、部屋の扉を開けて暗い廊下に飛び出した。
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