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暗く長い廊下には人がいない。
降りしきる雨の音は壁に阻まれて聞こえなくなったが、その静かさが不気味に思えた。
「誰か、おりませんの?」
小さく問いかけてみる。
いつもならば、部屋の見張りや夜勤のメイドがいるはずなのに。
「なんだか……怖いですわ」
少女は真っ暗な中、早足で廊下を進み、突き当たりにある部屋の扉を押した。
「お父様」
軽く開けられた扉の向こうには、大きな机が佇んでいる。
ついたままの明かりがぼんやりと照らす部屋は、いつも父親が仕事をしている風景のまま、父親だけが不在だと映し出していた。
「お父様?」
少女はランプを手に持ち、部屋から出る。
明かりを掲げて部屋のそばにある階段をゆっくり降りて行った。
「あっ、パデュマお嬢様」
階段下にいた白い寝間着のメイドが少女を見つけて頭を下げる。
少女パデュマは、寝間着姿のメイドを見て安堵し、息を大きく吐いた。
「お嬢様も騒ぎをお聞きになられたのですか? 私、目が覚めてしまって」
パデュマより少し年上に見えるメイドは階段の奥の廊下、玄関ホールの方を見つめている。
パデュマもじっと耳を澄まし、抑えた声が何かを話しているのを聞いた。
「賊……でしょうか? それならば、お嬢様は隠れて下さい!」
メイドはそう言い、何も持たずに玄関へと駆けて行く。パデュマは少し考えた後に、階段横に飾られていた花瓶を抱えて歩いて行った。
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