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朝になると嵐は止んでいた。窓から朝陽が射し込み、叩きつけた雨の跡を浮かび上がらせている。
「昨日のお話、何なのでしょうか。気になりますわ」
パデュマは着替えもせずに部屋を出る。朝食を持って起こしに来たメイドに部屋に戻された。
「姫様、ゆっくりお食事なさってください」
姫様。
聞きなれない言葉にパデュマはパンを手に取ったままメイドの顔を見る。メイドは小さく微笑んだ。
「パデュマ姫様、どうかなさいましたか?」
それがあたかも当たり前のように、今までそうだったかのようにメイドは聞き返した。パデュマは首を傾げる。
「……まさか」
まさか。
まさか。
その言葉を頭で一巡した時、パデュマの胸は高鳴った。
「フィリップ様と婚約しましたの?」
「えっ」
言葉に出す。
姫様、なんて呼び方は王族ということ。王族。フィリップ王子の妃になる他はない。
国王のことはパデュマの頭にはなかった。
「私が公爵の娘だからですわよね。そんな……フィリップ様とお会いしたこともありませんのに」
昨日の少年の顔を思い出す。可愛い顔立ちに丁寧なしぐさ、パデュマは自分の顔が緩むのに気がつかなかった。
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