物語は賑やかに始まり、

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その時ドアが開き、一組の男女が教室に入ってきた。女生徒はピッと右腕を上げ、 「おいーっす。何か凄い音したけど、何かあったのー?」 「僕の推測からすると……春がふざけて望のキレて、窓から突き落としたってところでいやいやいや、望、僕まで落とそうとしないで下さいよ。別に盗聴なんてしてませんから」 望に胸ぐらを掴まれた男子が弁明する。コーヒー牛乳みたいな色した頭に、迷彩柄のバンダナをヘアバンドのように巻いている男。背は望よりもやや高く、胸ぐらを掴まれてると言うのに、その声のトーンはあまり慌てた様子を見せない。 3年C組の生徒であり、望達の親友である長谷川竜斗だ。 「今日は何でまた? あ、春がバレンタインデーに浮かれて調子乗っちゃったとか?」 「概ね正解だ」 「やっぱりねー」とクスクス笑う少女。先程話題に出た人物、姫神愛香だ。愛香は、「そっか、もうそんな時期か」と腕組みしながら、 「今年は誰にあげればいいんだっけ。リュウでしょ? 優太君に喜一君、ゆっこに政紀君にハルハルに……そうだ、理緒ちゃんとみちるにもあげないとね」 「何気に俺の名前を抜かしたな」 ついでに春も。 「何言ってんのよ。今のは義理or友チョコあげる人。本命は……えへへっ。もちろん、」 「お、おぅ……」 「瀬馬さんっ」 「そのチョイスは予想外だった!!」 崩れ落ちる望に、愛香が「ウソウソ、ちゃんとあげるってぇ」と声を掛ける。同時に周囲から大量の舌打ち。 「浅月の野郎……これ見よがしにイチャイチャしやがって……」 「もう生徒会長でも何でもないくせに……」 「特技披露する機会も少なくなって、ツッコミ以外能がないキャラのくせに……」 「ハッ。おいおい、よく考えたらあの野郎、もうステータスがメガネしかねぇじゃねぇか」 ……聞こえない聞こえない。都合の悪い言葉なんて耳に届かない。ていうか言い過ぎじゃねこいつら。 そう考えながら立ち上がると、廊下から「うぅ……かゆ、うま……」と壊れかけのレィディオみたいな声が聞こえてきた。
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