1.生徒指導室の憂鬱

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違うか? さっき、町田刑事を叱咤したのも、台本通りなんだろう? 俺は速水刑事を見る。勿論、答えは何も帰っては来ない。 まさに疑心暗鬼。なんだかなぁ。 ここ数日、本当にろくなことが無い。 沈黙がしばらく続いた。 野球部の掛け声は、バットが鳴らす金属音へと変わっている。 太陽も山際へと消え入りかけて、生徒指導室には灯りがついた。 「……このままにらめっこ続けても、らちが空かんな」 沈黙を破ったのは、速水刑事だ。 首を左右にゴキゴキ鳴らし、座り疲れをアピールしながら、言う。 「じゃあ、後一度だけ、事件の状況のまとめを俺が説明する。 始めてからもう、結構な時間が経つしな。おさらいってやつだ」 右指を一本立てる。ラスト。これがラスト。 「ただ、雨宮君の事件発生時前後の様子も、もう一度だけ説明して欲しい 同じことを反復していけば、また何か思い出すかもしれないしな」 『刑事は何度も同じことを聞きたがる』という。 状況を何度も説明させる事で、証言の矛盾を突くためだとか。 ……なるほどな。素直に感心する。 話しの持って行き方が上手い。今の俺の中は『早く解放されたい!』という欲求で一杯だ。 俺は黙って頷く。 ラスト!これで本当にラスト!! 時刻は6時10分前。 ゴール目前のランナーのように、気力を振り絞る。
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