1.生徒指導室の憂鬱

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「まぁ、中には『自分は落下を直接見た』という生徒もいなくは無いが…… 仰向けで落ちてきたと言う奴もいれば、直立の姿勢で落ちたと言う奴もいる。 中には、ムーンサルトしながら着地したっていう、ふざけた証言まである始末だ」 どんな体操選手だよ。なぁ?と、速水刑事は俺に向かって笑った。 目立ちたいだけの生徒もいるのだろう。どうにかして『イベント』に乗っかろうとする、困った日本人気質。 こうして正しい情報は多くのデマの中に埋もれるという、しょうもない図が完成するというわけだ。 なるほど。警察も手を焼いているらしい。 「ただな」 速水刑事の顔が、苦笑から一転、刑事のそれに戻る。 「被害者の女生徒は落下した後、助けに入った教職員に、一言証言している」 そこで一度、言葉を切る。 その“証言”こそが、今の俺をこんな状況に陥れている原因。 「『屋上で誰かに背中を押された』とな」 ドクン。 心臓が波打つ。 何度聞いても、それを伊沢先輩が発したとは信じがたい言葉だ。 伊沢 雪。『和仁学園の天使』。 去年の文化祭の、『ミス・和仁学園』に選ばれた、全校生徒の憧れ。 誰にでも優しく接し、常に笑顔を絶やさない、女神の様な女性。
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