踏み出す一歩

10/17
前へ
/291ページ
次へ
長い睫毛、円らな瞳、塔の天辺にある狭い空間にいたのは、正真正銘、シリウスだった。 「シリウスっ」 思わずそのしなやかな首に抱きつく。 不思議なことに、吹雪の中、シリウスの周囲にだけ雪がない。 それどころか、触れたところが熱い。 シリウスは寒さに凍える湊を暖めるように、鼻先で触れてくる。 「シリウス…………」 大きくなる足音にハッとする。 気がつけば、黒づくめの集団に囲まれ、湊とシリウスは塔の端に追いつめられていた。 反射的に、湊はシリウスの背に飛び乗る。 (ここは言葉が力を持つ世界…………) 「さがりなさい、でないと焼け死ぬわよ」 『炎よ』 湊の号令と同時に、シリウスの口から炎が吐き出される。 黒づくめの軍団の足先ギリギリの地面を炎が舐めた。 「うわぁ」 「さがれっ」 追っ手は一旦、扉の内側まで撤退した。 ほっとしながら、ふと気づく。 「シリウス、あなたどうやって塔の天辺まで来たの?」 シリウスは湊の問いに応えるように、駆け出す。 「え、ちょっと待って、シリ…………」 塔から飛び発ったと同時に、シリウスの背から2つの翼が広がった。 風にのり、塔の上を旋回するように飛んでいる。 「と、飛んでるっ!?」 塔や城、雪に覆われた街並みが眼下に広がっている。 驚きすぎて呆然としていたのは一瞬で、湊はぐっとシリウスの手綱を握って言った。 「この城の何処かにサイフが囚われているの、見つけられる?」 シリウスは炎を吐き出しながら、急降下していった。
/291ページ

最初のコメントを投稿しよう!

531人が本棚に入れています
本棚に追加