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長い睫毛、円らな瞳、塔の天辺にある狭い空間にいたのは、正真正銘、シリウスだった。
「シリウスっ」
思わずそのしなやかな首に抱きつく。
不思議なことに、吹雪の中、シリウスの周囲にだけ雪がない。
それどころか、触れたところが熱い。
シリウスは寒さに凍える湊を暖めるように、鼻先で触れてくる。
「シリウス…………」
大きくなる足音にハッとする。
気がつけば、黒づくめの集団に囲まれ、湊とシリウスは塔の端に追いつめられていた。
反射的に、湊はシリウスの背に飛び乗る。
(ここは言葉が力を持つ世界…………)
「さがりなさい、でないと焼け死ぬわよ」
『炎よ』
湊の号令と同時に、シリウスの口から炎が吐き出される。
黒づくめの軍団の足先ギリギリの地面を炎が舐めた。
「うわぁ」
「さがれっ」
追っ手は一旦、扉の内側まで撤退した。
ほっとしながら、ふと気づく。
「シリウス、あなたどうやって塔の天辺まで来たの?」
シリウスは湊の問いに応えるように、駆け出す。
「え、ちょっと待って、シリ…………」
塔から飛び発ったと同時に、シリウスの背から2つの翼が広がった。
風にのり、塔の上を旋回するように飛んでいる。
「と、飛んでるっ!?」
塔や城、雪に覆われた街並みが眼下に広がっている。
驚きすぎて呆然としていたのは一瞬で、湊はぐっとシリウスの手綱を握って言った。
「この城の何処かにサイフが囚われているの、見つけられる?」
シリウスは炎を吐き出しながら、急降下していった。
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