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「サ……フ、サイ……、サイフっ!」
(空耳…………?)
どうやら気を失っていたらしい。
湊と、シリウスの鳴き声…………
とうとう幻聴まで聴こえてきた。
しかもその声は、どんどん近づいてくる。
「サイフっ」
はっきりと響いた声にサイフは視線を上げた。
天井近くにある窓から炎が吹き出している。
衝撃と共に窓の周囲にある石が砕け、そこから見覚えのある姿が飛び込んできた。
「湊……シリウス……?」
湊は翼を広げたシリウスの背に乗り、サイフの前に着地した。
「サイフ、無事っ? 私が分かる!?」
「湊…………本物か…………?」
驚いて見つめるサイフの前に跪き、湊は両手でその頬に触れる。
「よかった、生きてた……サイフ…………」
首に回った腕が暖かい。
シリウスはやや控えめに吐き出した炎で二人を囲む壁の雪を溶かした。その熱で、失いかけていた感覚が戻ってくる。
「湊、無事だったんだな…………よかった」
「私の心配より、自分の心配をしてよっ」
泣くのをぐっと我慢するような表情で、湊は叫んだ。
鎖に繋がれた両手を繋ぐ鎖に触れ、湊は『壊』と唱える。瞬間、まるで飴細工のように鎖が砕けた。
「立てる?」
「ああ」
湊はサイフに肩を貸しながらシリウスを呼び、その背にサイフを乗せた。
甘えるように、鼻先でサイフの手に触れる。
「シリウス……一体どうやってここへ? それにこの翼…………」
「説明は後、とにかくここから脱出しないと」
湊はサイフの前に乗り、互いの腰を繋ぐように紐で縛り、手綱を取った。
「しっかり掴まっててっ」
「うわぁ」
一気に窓まで飛び上がり、焼け焦げた石の隙間をすり抜ける。
突然の浮遊感に驚きながら、サイフは湊の腰に回した手に力を込めた。
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