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「よく降るな」と呟いて、カリフは窓の外を見つめる。降り続ける雪が家々の屋根や道を覆っている。
「北の大陸の王は、この世界で最も強い力を持つ術者だ。代々の王はその強力な術力でもって雪と寒さを払い、厳しい気候からこの地を守ってきた。だが、その力は年々弱くなっている」
「それで人柱を…………」
「人柱?」
「閉じ込められていた塔で、女の子に会ったの。彼女は王の娘で、小さな頃から塔の中にいて、出たことがないと言ってた」
「王だけでは気候を押さえることが出来なくなったのか…………」
カリフはもう一度窓の外を見た。
雪はどんどん激しさを増している。
「二人とも、ここを出る準備をしろ」
「え?」
「どんどん雪がひどくなってる。このままじゃ、街ごと雪に埋もれるぞ」
「待って、ここはどうなるの?」
「人の心配してる場合か!? 俺達が居てもいなくても、結果は同じだっ」
「…………ダメ、行けないわ。レユニオンを助けなきゃ」
「レユニオン?」
「人柱の女の子。私を助けて、塔に残ったの」
「残って何が出来る? 捕まれば、今度はお前が人柱だぞ」
「けど、この雪じゃ、船は出ない」
サイフの言葉にカリフは黙り込む。
言葉の力は絶大だ。
だからこそ、使うのが恐ろしい。
何でも出来てしまうからこそ、無闇に使えば取り返しのつかない事になる。
自然の摂理に抗えば、世界を壊しかねない。
行き過ぎた科学が世界を壊してしまうように。
「湊」
顔を上げれば、真っ直ぐに向けられたカリフの視線とぶつかった。
「お前は『言葉の力』で、この国を救えると思うか?」
カリフの問いは、まさしく湊が疑問に思っていたことだった。そんな便利な魔法のような力が存在する不条理ーーーそれこそが、この歪んだ世界を作り出しているのだとしたら…………?
「わからない…………けど、『言葉の力』でこの国を救えたとして、その負荷は何処か別の場所に歪みを生んでるんじゃないかって、思うと怖い」
それは漠然と湊が感じていたことで、レユニオンの存在を知って、その思いは強くなった。
楽に手に入れた物は呆気なく失われる、そんな気がするのだ。
例えば「人工雨」は、雨雲の中にその「種」となる物質を散布し、雨を降らせるのだと何かで読んだことが事がある。
別の見方をすれば、他の場所で降るはずだった雨を「奪って」いることになるのだ。
それは正しいことなのだろうか?
「言葉の力」は、それと同じなんじゃないかと。
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