カザフ・アルビレオ

3/3
前へ
 /292ページ
次へ
ガザフのいた世界では、太陽はひとつだ。薄桃色の月はないし、国が違えば言葉も通じない。 この世界より科学は発達していたが、「ポート石」のような魔法の石はなかった。 湊の母国である「日本」は、恐らくカザフが知るものと同じだろう。 「第二次世界大戦」をカザフは知っているし、終戦の直前に彼の国に起こった悲劇は、負の歴史としてガザフの記憶にも刻まれている。 元いた世界に戻ることを諦めた時、カザフはこの世界の「歪さ」に気づいた。 をしていた事に目を向けるようになったと言った方が正しいかもしれないが。 西の大陸は商業で栄えている。 東は温暖湿潤な気候に恵まれ、高い文化と信仰心を持っている。 北の大陸は一年の半分以上を雪に閉ざされている。唯一の「王政国家」だが、他国との交流は殆んどなく、その実態は謎が多い。訪れるのは「ポート石」を求める商人達だけだ。 カザフが辿り着いた南の大陸は、資源もなく、気候にも恵まれているとは言えない。大陸の南側は砂漠が多く、乾季の水不足に苦労していた。中央には豊かな水源もあるのだが、それを運ぶ術がないのだ。 「プルケリマ」から南の大陸に戻ったカザフは、恩人の元を訪ねた。 数年振りに会う男はずいぶんと年齢を重ねたように感じる。それでも、日に焼けた顔を綻ばせ、別れた時と変わらぬ表情で、カザフを歓迎した。 プルケリマでの出来事について、カザフは何も言わなかったし、男も問うことはしなかった。 長老である彼は多くを知っていた。 カザフが番人の問いに理由を、彼は知っていたのかもしれない。 それから暫く、カザフは男の元で過ごした。男が病で倒れたのは、半年後の事だ。 乾いた風と、吹きつける砂、視界を埋めつくす星の輝きと、地平線に昇る陽の光ーー美しくも厳しい砂漠の気候は、人にとって決して、住みやすい場所ではない。 「腹に岩があるらしい」 そう教えてくれたのは、彼の末子だった。 元いた世界は、ここよりも進んだ技術を持っていた。 上下水道の仕組み、教育制度、清潔にすることが病気の予防になること、魔法石を使わない動力の技術も。 腹を開いて「岩」を取り除く事も、元の世界なら出来たかもしれないが、ここでは不可能だった。 『誰かのために生きなさい』 恩人のその言葉は、カザフの胸に深く刻まれている。

最初のコメントを投稿しよう!

533人が本棚に入れています
本棚に追加
広告非表示!エブリスタEXはこちら>>