Act,1―基礎調査―

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   ‐1‐  閉じていた瞼を開かせたのは、携帯電話の着信音でも無線でもなく、いよいよ降り出した大粒の雨の音だった。  昼前から前線が活発化する、と朝の気象予報で知ってはいた。関東地方の梅雨入りが発表されたのが、四日前。  週間予報では、明日も明後日も、明々後日も傘のマークが並んでいた。 ──いよいよ梅雨本番、といったところか。  ステップワゴンの窓に叩き付けられては流れ落ちていく雨粒を、車内の助手席から漠然と眺めていた。  警視庁公安部外事第一課4係天谷大地(あまや だいち)。巡査部長。三十二歳。  左手の腕時計に視線を落とした。アナログ式の針は十一時と十分を指していた。  当初は、この成田国際空港第一ターミナルにある展望デッキから到着を確認しようかとも思ったが、如何せん雨だ。  雲もすこぶる厚く、とてもフライト日和などとは呼べない。  着陸予定時刻からは既に十五分経ったが、まだ到着したという連絡は入っていない。
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