プロローグ

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 ―2―  近くで鐘の音が聞こえる。  だが、近いという表現は今の自分には決して適切なものではない。六階の病床から同じ階のトイレに行くにも一苦労なこの体では。  かつて自分が通っていたあの学校と病院は、距離にして八百メートル。  近くて遠い場所。 学校の終業ベルが鳴ると、嬉しくて仕方ない。  一昨日、彼は「明後日にまた来る」と言った。いつもより遅い時間だが、今日はどんな話をしてくれるのだろうか。  こちらも何か話題は無いかと、テレビをつけてみた。ニュースが流れている。 『……容疑者が、福井県内で逮捕されました。事件発生から十四年と十一ヶ月。時効まであと二十一日での逮捕劇となりました』  アナウンサーが抑揚の無い声で読み上げているのは、ここ最近世間を賑わせている時効間近の事件のようだが、たいして興味は無い。中学生の私には関係の無い話だ。  ベッドの上で広げていたお気に入りのエッセイを閉じ、窓に目をやった。  一日の殆どを過ごすこのベッドが、退屈でつまらないはずのこのベッドが自分にはたまらなく好きな理由が、窓の外にある。  渋滞しているこの道路も、横にあるその線路も、曲がりくねったあの川も、山も、全てを神秘的に赤く染める夕日が見えるこの場所が、たまらなく好きだ。  そうだ。彼が、あの夕日が沈む前に来てくれれば。一度で良いから、このちょっぴり自慢の景色を一緒に見たいな。  多分、彼がここから夕日を見た事は、ない。そう思う。
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