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哲平はバックに廃棄物である昨日期限切れの弁当を詰め込むと缶コーヒーを一ノ瀬めぐみの手が空く隙を見て買った。
店長夫人がチラリと見る。
自分が50過ぎの古タヌキのような店長夫人に好意を寄せられているのを哲平は気付いていた。
それでも気にせず一ノ瀬めぐみに話し掛けた。
『今日も暑くなりそうですね』
哲平は千円を手渡した。
小銭入れには沢山百円や十円があったが、めぐみと少しでも長く話せるよう、またお釣りを貰う時に手が触れるようにわざといつも千円札を出す。
夏目漱石という作家が繋ぐ片思いだった。
彼は恋愛小説なんて書いたのだろうか?
そんな事を考えながら、気付いた時には哲平の手にめぐみの手が触れた。
『今日も暑くなりそうだね。
ゆっくり休んで、また明日ね』
直ぐ後ろに客が立っていた。
奥さんもジッと事務所から見ている。
『お、お疲れです。お先です』
めぐみの笑顔の余韻に浸ることなく、哲平はそそくさとレジを離れ、暑い夏の陽が登った外に出た。
こんな日常が今年も続くと思っていたのに。
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