9人が本棚に入れています
本棚に追加
予想通り、妹はすぐに僕の教室に姿を現した。
しかし、ああ見えて結構な人見知りである彼女は、ましてや上級生のクラスで大声を出すことなど出来ないようで、扉の前でうろうろとしながら、時折困ったような視線を僕に向けて来る。
だが、僕はあえてそれに気づかない振りをして白々しくも読書を始める。読む本は勿論、漢字辞書だ。
「あ、あの、御津橋くん。妹さんが、御津橋くんに用があるみたいだよ?」
「でも僕の方には用がないなぁ。アポなしの応対は、僕の方にも用がある時しかしない主義なんだ」
「そんな鬼畜な……! そんな主義してたら御津橋くん絶対友達出来ないよ?」
「大丈夫。僕には君がいるじゃないか」
「そんな、唯一無二の親友みたいな言い方されても私困るなぁ……」
僕に馴れ馴れしく話しかけて来るこの子は、妹とタメを張るレベルで反応が面白い。
引っ込み思案で、臆病で、大人しいけど消極的で、でもいじると結構光るものがある子だと僕は思っている。
名前は……、あれ。何だったっけ。
「ねぇ、親友」
「何、クラスメートの御津橋くん」
「君って、何て名前だっけ?」
「え? あ、卑弥呼だよ」
「違う違う、下の名前じゃなくてフルネーム。え、ていうか下の名前卑弥呼なの?」
「うん。邪馬 卑弥呼っていうの。親友の名前くらい覚えてよ…」
「うん、僕も何でこんなインパクトのある名前を忘れてたのか分からないよ」
案外、恐ろしい事は身近なところに転がってるもんなんだなって思った。
ある意味、悪魔ちゃんより酷い名前だ。ご愁傷様。ご臨終。
最初のコメントを投稿しよう!