葉山翔『ヴァイオレット・スキッツォイド』

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龍が帰ろうとすると、翔も身支度を始める。 そうだ。今日は給料が入るのだ。夕方6時に約束していたのを半ば忘れかけていた。 まだ二時間あるが、荻野弘子という女は何時も約束の時間よりも早く来る。 ゲームのやりすぎで軽い頭痛がしているため、さっさと終わらせて帰ってこようと考えた。 それに待ち合わせ場所は遠い。 「なんだい?おたくも出掛けるのかい?」 身支度をしている翔に龍は少しばかり急ぎながら話しかける。 「あぁ。うわべだけのデートだよ。」 翔は正直に言う。 「またあれか…。おたくも大変だねぇ…。」 龍は半ば呆れながらドアを開けようとする。 翔は龍には自分自身の事を半分以上は正直に話している。 部屋の本棚の中身の七割は女性からの『gift』であること、仕事という仕事は全くしていないこと、今は女性にこれっぽっちの愛情を注ぐ事が出来ない事。 しかし、五年前…本当に愛した女性を未だに想っていることはさすがに言えない…。 「まぁ待てよ。俺も出る。俺は今から『秋山直樹』だ。」 軽く笑いながらそう言うと、翔と龍はアパートを出る。
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