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薄暗い宵闇に二人の人影が立っている。シルエットで二人が女性だと判別できるくらいで、彼女らの容姿まではわからない。
半分欠けた月が私を嘲笑っていた。
「もし愛が目に見えるなら、愛はどんなカタチなのかしら?」
「もし心を映す鏡があるとしたら、心はどんな色なのかしら?」
張りのある透き通った女性の声。しかし冷たい印象を受けるのは気のせいなのか?
「E-7569」
二つのシルエット。二つの声が重なる。
「試験体0124の経過報告を」
「……はい」
私は跪く。
顔など見えなくとも頭では理解している。
この二人は私にとって絶対の存在。逆らえない。逆らおうとする気さえ起こしてはならない。いや、起こらない。起こるはずもない。
なぜか?なぜか……は考えてはいけない。
この混迷する感情──もしこの感覚を感情と呼ぶのならの話だが──は私を破壊しつつある。
常識を逆転させる。
根底を揺るがす。
正を否とほのめかす。
私はそれに辛うじて抗っている。
「試験体0124は二日前初潮を迎えました」
私の言葉に二人から安堵の空気が流れてくる。ここ数年間の心配事が解消されたから当然といえば当然なのだが、私には好ましくない展開だ。本来なら一生初潮など来なければいいと思っていた。……無理な話だとはわかっている。
「14にして初ね」
「平均より2、3年遅かったわ」
「栄養接種が難しかったのが遅れの原因かと思われます」
二人の会話に対して無難な対応。いつから「無難」なんて表現使うようになったっけ?
「では第2段階に入りなさい」
「すでに第4区にはA-2910、A-0831、A-0580を配置させています」
「彼らとの速やかな接触を」
「はい」
私は立ち上がる。顔を上げもう一度二人の姿を目に映そうとしたが、すでに彼女らの姿はなかった。
ぼぅっと立ち尽くす私の目の前で―――月がゆるりと西を見る。もうおまえに構っている暇はないと言って、闇を背負った雲の後ろに消えていった。
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