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見渡せば……いや、見渡さなくとも目に入る証拠の数々。
俗に遺跡と呼ばれる建物が木々と争うかのようにそこかしこに並んでいる。
その時代、遺跡の高さは今より二倍も三倍も高く、日光を遮るほどであったらしいが、今は風化してしまって木々がその高さを追い越し光を欲しいがままにしている。
キルトにはなぜそこまで建物を高くする必要があったのか理解できなかった。エクスシアは「人は他の者より上位に立ちたいという思いが強いの。だから他の者より高いところに立って下を眺めていたくて高い建物を何個も造ったのよ」と説明してくれたが、やはり納得がいかなかった。
確かに高いところに立って世界を見渡すのは気持ちいいが、人や植物から日光を奪ってまで高い建物を造るなんて、先人の考えることはわからない。
あの等間隔に並んだ窓ひとつひとつに住まなきゃいけないほど人が溢れていた、と言われたほうがまだ納得できる。でもそんなに人がいることなんて想像もつかないが。
現在は集落さえ形成できないほどで人に出会うのすら稀なのだ。キルトの両親はキルトが物心つく前に他界したらしいし、エクスシアと一緒にいるのだって彼女がキルトの従姉だからである。エクスシアの両親もまた他界している。
そんなふうに先人の思考回路解読に努めているうちに、クスリが効いてきたらしい。痛みが段々引いていく。
「エクスシア、ケルブはどこに行ったの?」
上半身を起こし、傍でナイフの手入れをしていたエクスシアに話し掛ける。
エクスシアは優しく微笑み「薬が効いたのね」と囁いた。 ちなみにケルブとは数年前に出会った男である。機械に襲われ危なかったところを助けてもらってから一緒にいるようになった。
機械――人間と見分けがつきにくく人を襲うものを総称してキルト達はこう呼んでいる。これも先人の時代に人が造ったらしい。
これはキルト達の勝手な想像だが、機械が人を襲うことから考えて、機械が人の手に負えなくなるほど暴走したので人間が少なくなったのではないだろうか。実際キルトの両親も機械に殺されたと聞いている。
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