2/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
   今朝。  私、いつもの時間の電車に乗れなくて電車を待っていたの。あーあ。  次の電車は三分後。  扉が開くとすぐ、膨れ上がったタンクみたいに人という人を吐き出して、とっても嫌な気持ちにさせたけど、仕方なく自分の体を押し入れた。  無防備な右手が誰かの手に触れた。  右後ろ、首の横に覆いかぶさる顔がある。  電車が揺れる。      首筋にかかる息が頚動脈を捉えたらしい。  「蛇」が舌を伸ばしてきた。      予習するつもりで鞄から出したノート。  開けないまま手の中にあって握り締める。    ノートに書かれた名前は見られているかもしれない。この「蛇」は、笑っているかもしれない。    ドアの開閉。冷たい空気がのどを吹き抜ける。    舌は伸びていなかったのだろうか。  水分を得た感触はない。  また閉まった扉の横で、私の頚動脈を蛇の冷たい吐息が冷やした。「蛇」はたぶん私のノートの名前を知らないだろう。  満員  袋いっぱい  安売りのみかんみたいだ。  「蛇」のうつむく手元から、科学技術がなにかを発信した瞬間だった。携帯のネオンサインが私の右手を青白く光らせる。またひとつかかった吐息は、今度は熱かった。    電波が私を貫く、送信。  「蛇」がゆっくり首を上げ、なにかを見てから私を見た。目が光って、私は向き直ってノートをめくる。    さきほどこの空間から発信されたなにかを受け取ったひとはどこにいるんだろう。  蛇の笑顔が私のノートの上に見える。  
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!