どんぶらこっこ

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 鈴江は山へ芝刈りへ出向く雅彦を見送り、部屋の中から少量の洗濯物を持って家を出たのは、朝日を拝んでから一時と一刻が経ってからだった。  もう何十年と使った年期のある桶に洗濯物と、これまた年期のある洗濯板を入れ、鈴江は家から三十間程離れた小川を目指した。  この古屋に雅彦と住んですでに四十年は経つ。その間、ほぼ毎日行き来したこの道には、自分が作った獣道が小川まで続いている。  何度も何度も踏みしめたこの道で鈴江はまた一歩、小川へ近づいた。  この小川は鈴江の自慢だった。近所に他の家は無く、鈴江が一人独占しているのだが、初めて見たその日から透明度の高い水は陽に輝き、鈴江の瞳を煌めかせた。  水面を覗くと、小魚が数匹。小魚が戯れる光景にどことなく頬が緩む。ごめんなさいねと断りを入れて優しく手を水に付け、その場に居た小魚を他所にやる。そして、洗濯物を水に付けた。
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