どんぶらこっこ

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 季節は三月。  山から流れてくる雪熔け水は冷たく、皺だらけの手を屈折さてて見せた。ひばりの軽く綺麗な鳴き声がささらぎと共に、一つの音楽のように耳に届く。  鈴江は川に洗濯板を入れ、その上に洗濯物を優しく丁寧に走らせた。  洗濯物が片付き始め、ほどよい疲労感を感じた頃、微かに水面が波打つのがわかった。  波は上流の方から来ており、鈴江は不思議と思い上流を見る。  ――始め、妖怪かとも思った。西瓜よりも一回りも二回りも大きさがあり、白に赤が強まったような色である。 「ひぃあ……」  思わず腰を抜かしかけた。ぺたんと腰と両手を地に付き、唖然としてそれを見る。 「な、何じゃありゃあ……」  淡い色をしたそれはゆっくりと川を下り、鈴江に向かってくる。  どんぶらこっこ。どんぶらこっこ。  流れてきた何かは、近づく事によってしだいにわかった。目を見開き、口はあんぐりと開く。
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