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「おじいさんおじいさん」
鈴江が家の裏から水桶を持ってきた。家の裏には井戸と畑がある。農作業をしていたのだろう。手が土で汚れている。
鈴江は組んだばかりの冷や水を桃にかけた。
「傷まないようにたまにかけておいたんです」
まだ春先とはいえ、日差しは弱くはない。濃い影を作る太陽から桃を守る水は、きめ細かい桃の皮をすうっと流れた。
「家に入れておきたかったんですが重くて」
「一人じゃ難しいだろう」
戸口と敷居では一つ高さが上がる。無理に上げて傷を付けたくはなかった。雅彦は槇を下ろし、桃の端を持った。感触は柔らかい。
鈴江は雅彦が何か言う前にその反対側を持った。
「大丈夫か?」
「平気です」
なら、せーの。
重たい桃は簡単に持ち上がり、鈴江は雅彦のたくましさを実感し、この大きな桃に期待で胸を膨らませた。
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