桃から生まれた桃太郎

3/5
前へ
/9ページ
次へ
「おじいさんおじいさん」  鈴江が家の裏から水桶を持ってきた。家の裏には井戸と畑がある。農作業をしていたのだろう。手が土で汚れている。  鈴江は組んだばかりの冷や水を桃にかけた。 「傷まないようにたまにかけておいたんです」  まだ春先とはいえ、日差しは弱くはない。濃い影を作る太陽から桃を守る水は、きめ細かい桃の皮をすうっと流れた。 「家に入れておきたかったんですが重くて」 「一人じゃ難しいだろう」  戸口と敷居では一つ高さが上がる。無理に上げて傷を付けたくはなかった。雅彦は槇を下ろし、桃の端を持った。感触は柔らかい。  鈴江は雅彦が何か言う前にその反対側を持った。 「大丈夫か?」 「平気です」  なら、せーの。  重たい桃は簡単に持ち上がり、鈴江は雅彦のたくましさを実感し、この大きな桃に期待で胸を膨らませた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加