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二人で運ばれた桃は剥きだしのまま畳に置かれた。すぐに鈴江が風呂敷を敷く。その上に桃を転がせて乗せた。十畳の部屋に桃を入れると、部屋が途端に狭くなる。
「割ってしまうか」
そう言って雅彦が外に出た。しばらく待つと濡れた鉈を持って帰ってくる。包丁ではとてもではないが、到底切れそうにはなかった。
鈴江は反対側に回り、桃を押さえる。雅彦は刃を桃に当てて引いてみる。普通の桃と同じく、少しの実と共に簡単に皮が切れた。
ずぷりと刃を押し込む。そして一気に下へ鉈を走らせた。柔らかい実は簡単に裂ける。しかし中心には全く届かず、半分も切れなかった。鈴江と場所を変わり、反対側にも刃を入れる。そして、下ろした。
風呂敷は桃の汁を吸い、下の畳にも染みていた。それに気づき鈴江が息を吐く。
「外で切ればよかったかもしれませんね」
「や、少し静かにしてくれ。何か聞こえるぞ」
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