桃から生まれた桃太郎

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 雅彦は辺りを見渡した。家の中には他に鈴江しかいない。外を見てみる。小鳥一羽もいなかった。戻ると、鈴江が小首を傾げて聞く。 「どうされました」 「声が聞こえるんだ」 「声……はて」  鈴江は目を閉じ、耳に集中した。雅彦は黙っており、張り詰めた空気が漂う。しかし、それが揺れた。 「何かしら」  確かに聞こえた。聞こえる。鳴き声? 違う……泣き声? 「子ども?」 「わしには赤ん坊の泣き声に聞こえる。どこから……」  一瞬交わった二人の視線は、奇しくも同じ方を向いた。両辺が切られても割れない桃にである。 「この中か」 「たぶん」  雅彦は桃に耳を当てた。果汁の多い桃の肉を伝って確かに聞こえた。雅彦は目を見開き鈴江に向き直る。口に手を当て、鈴江も驚きをあらわにしていた。 「あやかしかしら」 「昼間だ。それに本物の赤ん坊の泣き声に聞こえる」
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