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「あーいーつーはー!苦手なくせに、すぐ陰気を引き寄せる!」
通常なら、陰は陰を、陽は陽を高め、引く力がある。
しかし、吉平の場合、この法則は適応されない。
彼は無だった。
行・卦・干・宿・禽、どこにも属さない無。
全てを取り込み、全てを受け入れてしまう。
「角(すぼし)、」
時由は、自分の式の名を呼ぶ。
「“運べ”!」
さぁ………
風が吹く。
命令に従い、式、角が時由を舞い上げる。
時由は下に残った玄武に目を移す。
「“南へ”!玄武、あとは俺がやる。」
「晴明様には?」
「知らせなくていい。一人で十分だ。」
「承知しました。」
玄武が陰形すると同時に、角が時由を南、吉平のもとへと飛ばせる。
─……て…─
闇に、声が響く。
─…逃げて……─
吉平は聴く。
人ではないモノの声を。
─…の方は……に…恨、─
誰?君は、何?
吉平の問いに、闇が蠢く。
─神が……─
闇は続けた。
─……………来る……─
「オン!」
パシュッ!
闇が弾ける。
途端、邪気は霧散され、怪の気配も失せる。
突然の声に、吉平は顔をあげた。
「吉平!!」
心強い幼馴染み、時由の声に、吉平はほぅっと溜めていた息を出す。
「時由遅いよ。」
ヒラヒラと手を振って時由に応えると、バシッと何かが頭にぶつかった。
ぶつかった物を拾い見ると、それは一本の筆。
この筆で霊符を書いているというのに、随分な扱いだなと思いつつも、吉平は前まで来た時由にそれを渡す。
「この馬鹿!陰が溜まったら死ぬんだろ!少しは行動を慎むとか、晴明の式神つけるとかしろよっ!」
パシッと筆を受け取り、文句を言う時由に、吉平はヘラッと笑う。
「心配してくれてありがと。」
「してない!」
キッと言うと、時由は立ち上がる吉平に手を貸す。
「斗(ひきつぼし)、“食べて”。」
式に怪の残骸を処分させると、時由は吉平を睨めつけた。
殺気さえも出そうなその空気に、しかし吉平はそれを飄々とかわす。
「ごめんね。でもほら、収穫あったし。」
その言葉に、時由は顔をしかめる。
「収穫?」
「うん。俺たちの出番。」
吉平の言葉に時由は息を飲む。
吉平がポツリと呟いた。
「神が愚りた。」
陰陽師には、その力量や能力に個人差がある。
その中で最も稀かつ重んじられる能力は神祓いの能力。
神祓いと言っても、神を祓うわけではない。それ以前に、神は祓うことはできない。
それは人の身に余る所行だから。
では神祓いとは何か。
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