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彼は、自分がそこを目指せるだけの実力を有しているとは到底思えずにいた。
勿論、魔法士に対する憧れは他の子供並みに持っていた。もっと幼いころには、何が何でも魔法士になる、と堅く決心していた時もあった。
だがそれ以上に、彼は魔法士に対して少なからぬ怖れも抱いていた。
魔法士の実例が、身近にあったからだ――今は亡き、母方の祖父が魔法士であった。それも、エリート中のエリートと呼ばれる腕を持った、魔術士だった。
彼自身はその祖父には数えるほどしか会った事は無い。だが、そのいずれに於いても祖父の存在は彼の心に強烈な印象を刻み付けた。祖父がその厳めしい顔つきの上で少し眉を顰めるだけで、ハルハは背筋の凍るような思いを味わった。
一方、遊び相手に対しては祖父は自慢のタネとなった。
「おれの祖父ちゃんはすっげえ強いダーイスケルなんだぞ!」というのが彼の決まり文句であり、必殺技は「祖父ちゃんに言いつけて呪ってもらってやる!」であった。
無論、祖父の前では彼も大きな口を聞くことは出来ず、ただひたすら縮んでいるばかりだった。
そういったこともあり、その祖父が死んだと聞かされたとき、ハルハは子供心に妙なしこりを覚えたものだ。
(あの人が、いなくなった!?
そんな、ウソだ。あんなコワい人が……あんなに、でっかかった人がいなくなるなんて。
だって…あんなにでっかい人が、いなくなったら、もっと世界がぐらぐらするんじゃないか!?)
“でっかかった!” ――強烈な存在感をもった祖父が亡くなっても、世界は相も変わらず続いている。
これは、おかしくないのか。
彼がどうしても魔学<ダールィル>に進むのを躊躇してしまうのは、この二点なのだった。
一つは、祖父を超えるような魔法士になれると思えないこと。
二つには、どれほど偉大な魔法士になったところで、結局死に様はそう変わりはしない、ということ。
両親は、そんなハルハの内心のおそれを知ってか知らずか魔学に進んでほしそうにしている。
両親とも魔力は無い。ハルハには兄弟もいない。
そして、祖父が今際の際に告げた言葉――『ハルハは、磨けば光るかもしれない。』
延々と悩む彼の前に現れたのは、一匹の黒猫<カラコティ>だった。
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