一<ジン> 黒猫問答

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「お、地理か」 「肩に乗るな」 「気にしない、気にしない」 机の前で、一人の少年が地理の教科書とノートを開き、苦しげに唸っている。その肩には、一匹の黒猫<カラコティ>が面白げに目を光らせて留まっている。 「へえ、自分の国の名前は知ってたんだ」 黒猫は机の上に降り立ち、ノートに描かれた地図の西端に位置する大陸から少し離れたところにある島嶼部に目を移してそう呟く。そこには汚い字で「RiiAsta」と書かれていた。 「てめえはおれの事、三歳児だとでも思ってるのか!?」 「三歳児の方が可愛げがあって良いよ。その点ハルハは……」 黒猫は少年を振り返り、苦笑にも似た声で続ける。 「救いようがないなあ」 「可愛げが無いのはお前だろ、ネロ!もっとネコらしくしろよ」 いらいらと反論する声には、幾分真剣な願いが込められていた。 「まあ、考えとくよ。……おいおい、宗主国の名前くらい書けよぉ」 「んだあ?ソースがどうした」 「食いもんじゃない。日洲<リィ=アスタ>を支配してる国だ。  大輝皇国。ヴェルフイ=サハディンの名前くらい、ちゃんと書けなきゃあ」 ネロは地図の西端の大陸に前肢をつけてそう言う。ふと、地図の全体を見渡し、一瞬絶句した後、言葉をつなげる。
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