383人が本棚に入れています
本棚に追加
「それじゃ、聞いてみようかしら?貴方、今日の夕方くらいに、この辺りで黒いスーツの女を見なかったかしら?」
相手が単刀直入に来た事に太平は安堵した。
それは自分が怪しまれて居ない事を示すからだ。
「いえ見てない…いや見たかな?すみません、余り良くは覚えていないもので…。」
少々の困り顔を造り、太平は無難に答える。
覚えていない、非常に便利な言葉だと太平は心から思った。
「そう、それじゃあ仕方ないわね。」
案の定、女性はアッサリと諦めた。
ならば、と今度は太平が質問を返す。
「その人が、どうかしたんですか?」
この質問は非常に自然だと思う。逆にそそくさと立ち去る方が怪しいものだ。
「うーん、強いて言えば…家出、かしらね?」
女性は感情の込もって居ない「困った」を呟き、再び口を開いた。
「お時間を取らせてごめんなさいね?あ、この事は他言しないでくれると嬉しいわ。」
口元に人差し指をあて、内緒のポーズをとる女性に苦笑いを浮かべながら、太平は立ち去ろうとして、その手を掴まれる。
最初のコメントを投稿しよう!