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話し出そうとする喉を、何度か空気だけが出入りする。
それを見ながら、太平は煙草を一本くわえた。火を着けると太平の少し苦手な、苦味を含んだ煙が拡がる。
「…実はね、綾見澤さんを探してる人に会ったんだ。」
明らかに動揺する綾見澤、太平自身、動揺がなかった訳では無い。
しかし、どんな形であろうと、一度繋いだ絆は消したく無い。
それもまた本心だった。
「その人に、俺は知らないって答えたんだ、巻き込まれる気満々でね。だからさ、そんなに気を張らないでよ。俺は気にしないからさ。」
太平の言葉に一瞬唖然としたが、綾見澤は深く頭を下げた。
「ごめんな、太平になんかあったら、絶対アタシが守ってやるから…。」
太平は携帯灰皿に煙草を押しあて、女の子に守られるってどうよ、と思い苦笑いする。
「謝る必要なんてないよ。こういう時はさ、笑ってありがとうって言われた方が、俺は嬉しいかな。」
綾見澤は顔を上げ、全く、と呆れたように笑顔を浮かべた。
「…ありがとな、太平。」
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