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太平に至っては、元来の友人の少なさから外で声を掛けられる事など非常に少ない、その上年下の、更に言うならこんな美少女に声を掛けられる事などあり得ない事なので、両手に豚肉のパックを持ったまま固まってしまうのは仕方ない事だろう。
「あの~、何処かで会ったっけ?」
とは言え、相手にいつまでも背を向けているのも失礼だと思い、未だ悩みきっていない右手の豚肉をカゴに入れ、二番に向き直る。
「…些か、緊張感が足りないように感じますが?」
「へ?」
緊張感が足りないと言われても、何に緊張するべきなのか解らない太平は相変わらず間の抜けたような返事を返す。
「本当に解らないのですか?期待した私が馬鹿だったんですかね。」
はあ、と溜め息をついて、二番は太平に屈むようにジェスチャーで伝える。
「一番が元気そうで安心しました。けど、いいんですか?今頃三番が貴方の家に向かってますよ?」
太平の背中に冷たいモノが走る。
一般の人間が使う事などそうはないであろう「迂濶だった」と言う単語が頭に浮かぶ。
「ゴメン!これ!」
突然大声を上げた太平を、辺りは何事かといぶかしむが、太平は気にせず店の外に走り出した。
「これで少しは楽しくなりそうですね。けど…」
二番は手渡されたカゴを見て首をかしげる。
「…どうしましょうか、これ。」
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