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備え付けのベンチに下ろされ、太平はイマイチ締まらないな、とぼやく。
綾見澤は苦笑いを浮かべ、太平の隣に座った。
「その、ごめんな?隠してるつもりじゃ無かったんだけどよ…。」
綾見澤は足元から小石を拾い上げ、手元で持て余した。
「踏み込まなくちゃ、前に進めないから聞くよ。
綾見澤さん、君は一体何者なんだ?」
綾見澤を見ずに、夕日を眺めながら太平は問う。
聞けなかった事、言えなかった事を、今、清算しようと、お互いに思った。
穏やかに、将来を語り合う恋人達のように、自然に綾見澤は切り出した。
「太平なら、驚いてもそれが事実だって信じてくれるだろうから、言う。」
そう言って、手に持った小石を自分の腕に宛て、思い切り身を裂いた。
「ちょっ!何を…!?」
太平は慌てて傷口を押さえようとするが、それを躊躇った。
傷は、一切の血を流す事すら無く、その姿を消したからだ。
「正体から先に言っちまえば、」
綾見澤は儚く微笑む。
「アタシ達はもう、死んでるんだ。」
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