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「あれ…?」
部屋に戻ると女性の姿が無い。部屋を見回してみても居ない。
起きたら知らない場所に居たのだから、不安を覚えて逃げてしまったのかもしれない。
手に持った桶に軽く視線を落とし、小さく息を吐いて洗面所に戻ろうとした太平の喉に、冷たい感触が当たった。
「動くんじゃねえ。」
声は女性の物だった、太平はさっきの女性だと容易に想像し、なるべく優しく、ゆっくりと口を開いた。
「気が付いたんだね、よかった。」
勿論、喉に当たる物が刃物である事など分かっている。
それでも声を荒げたり怯えたりしないのは、女性に更なる不安を与えないようにの配慮だ。
だが、それが女性を煽る結果になった。
「…慌てないんだな。アンタ、何者だ?どうしてアタシを拾った?」
拾った、の単語は、太平に仔犬や仔猫を連想させ、太平は軽く笑ってしまった。
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