「ジレンマ」

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1日目 彼女が目を覚ますと、そこは一面真っ白だった。 そうといっても、一面雪のゲレンデだとか、そういうことではないのである。 壁があった。床があった。天井があった。 ただただ、それらが真っ白なだけのことである。 窓もなく、光源もないはずのその空間は、どこか温かい光で包まれている。 そのせいもあるのだろうか、彼女は不安ではあるもののどことなく安心した様子である。 しかし、いつまでもそこにいるわけにもいかない。 出口を探してみるのだが、どこにも見当たらない。 助けを呼ぼう、と思ったが、彼女は躊躇した。 誰の名前を言えばいいのかわからないのである。 全く記憶がない、そういう訳ではないのである。 自分の名前も覚えているし、どこで生まれ、どこで育ったかも覚えている。 両親の名前も覚えているのだが、同じ家に住んでいながら疎遠な2人を呼ぶのは気がひけた。 しかし、彼女には大事な部分が欠落していた。 なぜそこにいるのか、それだけがどうしても出てこないのである。 いや、正確には彼女は17歳であるのだが、15歳からの記憶、それがないのである。 彼女は苦悩していた。 それもそのはずで、こんな閉鎖されたところにいれば誰しもが不安になるだろう。 ましてや原因すら思いつかないのだ。 しかし、なぜか苦痛ではないのである。 どこか安心しているような、そんな表情にも見える。 そんなところで、彼女は腹が減ったことに気づく。 人間はこんなところでも腹が減るのか、そう少しはにかんだ彼女はなんとなく食べたいものを思ってみる。 すると、そこに彼女が望んだ料理が出てきたのである。 光に包まれたような、一瞬そんな気がしたところには、彼女の望んだ料理が出てきたのだ。 彼女は驚いた。驚愕した。 しかし、彼女に抵抗はなかった。 なぜか、それが危険である、という認識はなかったのだ。 彼女はそれを食べてみた。自分の好きな味である。 同時に飲み物も欲しくなった。 すると、そこにはまたも望んだ飲み物が出てくるのである。 彼女は考えた。 ここは自分が思い通りになる世界なのだろうか。 そんな幼稚園児のような考えも浮かんでくる。 夢にしてはリアルで、17年しか生きたことはないけれど、そこに現実を感じていた。 彼女は眠くなっていた。 寝てしまおう、そう思ったときには、すでに自分の好きな、望んだ形のベットが現れていた。
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