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僕
遅刻
嫌な言葉だ。次の準急に乗り損ねたら、それが現実味を帯てくる。
だが駅へと向かう足は競歩の域を出ない。走って駅に向かうのは、遅刻遅刻! と周囲の人達に体でアピールしてしまうので嫌だ。恥ずかしいから。バーカ、もっと早く家出ろよとか思われたくない。
こゆいうシュチエーションで邪魔する役割と言えば、恋愛シュミレーションゲームならば女の子、NHKのドラマなら老人なのだけど、僕の前に立ち塞がったのは茶髪の兄ちゃんだった。
「ねえ君、映画が好きそうな顔してるねー。ここに映画見放題の特別券があるけど、今なら五千円で売ってあげるよ、運がいいな~」
「そんな大金ないので結構です」
「あー、最近の高校生は金持ってんじゃん。嘘ついたら怒っちゃうよ~」
そう言いながら、僕の進路を完全に遮断した。
駅だけにお前は遮断機か! と言いたいけど言わない。
面白くないから。僕が面白くない状況だし。
「ほら、高校生ならお金の計算ぐらいできるでしょー。お兄さんが優しく聞いてる間に答えてくんないかな~。優しく聞いてる間にさ~」
やれやれだ。もう準急に間に合いそうにないや。
つまりはHRに間に合わない。同時に担任の秋冬先生に怒られると言う意味でもある。面白くないというよりは恐ろしい。
一時間目が日本史で秋冬先生がそのまま教鞭を執るというのも加味すれば、恐怖と言い換えても足りないぐらいだ。
まったく、この人は自分が何をしてるか理解していないな。
少し驚かせてやるか。何をするにもリスクを払うのがエチケットだ。
僕は力を解放した。
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