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──……
「だから、無理だって言ったろ?」
「そんなことないですよ! 現に当たり番号の書かれた紙が貼ってあったじゃないですか」
「あれはやらせかもしれないだろ? あらかじめ店側で引いておいてさ……」
「さすがにそれはないと思うよ? これだけ人がいる中で当たった瞬間を見せるのが一番の宣伝になるんだから」
こーちゃん考え方卑屈過ぎー、と隣を歩く紗季奈は俺を指差しながら笑った。
そしてミクも同じように人差し指を向け、
「そーですよマスター、夢がないです! そんなことでは当たるものも当たりません。『鰯の頭も信心から』ですよ」
「いや、それは微妙に意味が違う気が……」
その証拠に紗季奈も賛同しようか困ったような笑顔を浮かべてるし。
それにそのことわざに則れば、その考え方が大したものじゃないと認めているようなものだと思うのだが……。
まぁ、それはいいとして。
型抜き屋を後にしてから再び出店を一回りした俺たちは、他愛もない話をしながら人のごった返す境内を歩いていた。
「さて、これからどうする? まだ見たい店とかあるなら付き合うけど」
適当なスペースを見つけて歩を休め、二人に聞く。
俺の方としてはもう十分出店は堪能したので、二つの意味で満腹である。
「んーそうだね、個人的にはそろそろ移動したいかな」
「「移動?」」
紗季奈の言葉に、俺とミクが揃って言葉を返した。
その不思議そうな顔を見て、紗季奈は、
「うん、移動。二人とも、忘れちゃったの? そろそろ時間だよ」
「時間って……」
「あっ」
俺が取り出したの携帯のディスプレイに浮かぶ数字を見て、ミクは小さく声をあげた。
「18時47分……が、どうした?」
「花火ですよ、マスター」
あぁ。
本当にすっかり忘れていた。
そういえば、7時からだったっけ。
「でも、別にわざわざ移動なんかしなくてもここからでも花火は見えるんだろ?」
「んー、ま、それもそうなんだけどさ」
紗季奈は少し考えるような仕草をしてから満面の笑みを浮かべ、
「えへへ、とっておきの場所があるんだ」
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