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得意げな笑みを浮かべてそう言う紗季奈に連れられた先は、境内の裏手にある下り階段だった。
その階段の入り口には、恐らく(というか絶対)立ち入り禁止と言わんばかりに、ロープが掛けられている。
紗季奈はそれを見て、
「よいしょっと」
と、のれんでもくぐるようにあっさりと迷いなく通り抜けた。
「お、おいおい、いいのかよ」
「いーのいーの。許可はもらってるから」
許可?
少し悩むが、とりあえずはその言葉を信じ、俺とミクは同じようにロープをくぐり抜けて階段を下る。
そこは表の祭囃子は変わらず聞こえてはくるものの、人通りは全くと言っていいほどなかった。
明かりもぶら下がっている提灯と月明かりだけで、祭りの明かりが漏れてこなければ真っ暗だろう。
来たときより幾段か少ない階段を下り切り、少し道なりに進むと、そこには外灯一つが照らし出す小さなスペースが広がっていた。
「ここね、最近はめったに使われないけど、長い階段を登ってきた人の為の休憩スペースなんだよ。よくお爺さんたちが神主さんと和菓子食べたりしてたんだって」
「へぇ、こんな場所があったのか」
確かに、手作り感溢れる小さな机とベンチからそんな風景が見て取れるようだった。
「花火は境内の裏手から上がるから、実はこっちの方がよく見えるんだよ。机もイスもあるし、食べながらでも見やすい特等席なんだ」
「さすがというか何というか、よく知ってたな」
「この神社には小さいころよく遊びに来ててね、神主さんとも知り合いなんだ。それで、無理言って入れてもらったの」
なるほど。
神主と知り合いとは、なんか紗季奈らしいと言えば紗季奈らしい。
それに腰を下ろしてまったり花火を楽しむのも悪くない。
「来るための苦労を考えないなら、なかなかいい場所だな」
まぁ、そうなんだけどね。
腰を掛ける俺たちに紗季奈は笑いながら答えた。
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