216人が本棚に入れています
本棚に追加
でも、と俺は口を開く。
「こんなしっかりした机とイスがあるなら、なんかちょっとした食べ物でも買ってくれば良かったな」
「なら、かき氷にしませんか? 私食べたいですし、買ってきますよ?」
ミクが俺と紗季奈を見て尋ねる。
ふむ。
確かにかき氷はいいな。
多少腹一杯でも食べられそうな気がするし、この暑さも和らぎそうだ。
視線を紗季奈に向けてみると、紗季奈も笑みを浮かべて、
「いいね、私も賛成」
「俺もだ。でもなんだったら俺買ってくるよ。どうせすぐだし」
俺が申し出ると、ミクは、
「いえ、大丈夫ですよ。道もしっかり覚えてますし、お祭りに連れてきてくれたことへのささやかなお礼とでも受け取っておいてください」
「そうか? なら、せっかくだしお願いしようか。俺はメロンで。紗季奈は?」
「私はブルーハワイかな」
「メロンにブルーハワイですね、了解です」
元気よく敬礼するような動作を取るミクに、俺はかき氷3つ分の小銭を渡した。
さすがに落としたりはしないだろう。
「それじゃ、ちょっと行ってきます!」
そう言ってミクは祭り賑わう境内へと向かって行った。
俺と紗季奈はいすに腰掛け、ミクの帰りを待つ。
「間に合うかなぁ。花火があがるまであと5分もないよ」
「まぁ、大丈夫だろ。かき氷屋は回転も早いし。それより急ぎ過ぎて途中で落としたり転んだりしないかの方が心配だよ」
「あはは、そうだね」
……。
微妙な沈黙が僅かだが続く。
この夏を通して紗季奈がひとりの女の子であることを意識してしまったせいか、何故かこういうときに緊張する。
その上今紗季奈は浴衣を着ているわけで。
……ぬぅ。
「あの……さ……」
先に沈黙を破ったのは紗季奈だった。
外灯に照らされているせいか、少し俯いているその表情は微妙な影になってよく読み取れない。
「……ん? なんだ?」
沈黙を意識しないように、俺は何気ないというふうに言った。
こーちゃんはさ。
紗季奈は続ける。
「ミクちゃんのこと、どう思ってるの?」
最初のコメントを投稿しよう!