夏休み~第四週目~

38/59
前へ
/223ページ
次へ
「やめたって、何──」 「いや、ごめん。ちょっとした独り言だよ。やめたのはね、いろいろあるんだけど」 急におかしなことを言い出す紗季奈に、俺は戸惑うばかり。 何だというのだろう。 だが、当の本人は何故か落ち着かない様子だ。 「えっと、えとね……」 ……? なんだって言うんだ。 確かに普段はお目にかからない格好でいるから、それだけで普段の紗季奈とは違うような感じもするのだが。 今の紗季奈は、それよりまだ違う。 「私ってさ、本当は最低なヤツなんだよ?」 いきなりさらに意味の分からないことを言い出す紗季奈。 お前が最低なら、俺は地下何mくらいだろう。 「でもね、私、諦めきれなかったから。諦めたく──なかったから」 ぽつりぽつりと。 まるで、水が入れ物から少しずつこぼれていくように。 入れ物から、溢れていくように。 言葉を紡ぐ紗季奈。 「これでも私、すっごい悩んだんだよ? 何の比喩でもなく、寝れない日があるくらい」 でも、そうやって紡ぐ紗季奈の言葉は。 少しずつ、少しずつ、決意が滲むようで。 「でも、使い古された表現だけど、自分に嘘はつけないから。自分の大好きな人に、嘘なんてつきたくなかったから──」 だから俺はどうしても。 目も意識も、そらせなくて。 「私はね、こーちゃん──いや、」 ・・・・・・ 白石光輝くんが。 ドォン!! その瞬間けたたましいほどの爆音と、僅かに早くに空に散った光が四方に尾を引いていた。 少し遅れて、沸き起こる歓声。 反射的に空を見上げる。 どうやら花火が始まったようだ。 そして、次の花火が上がるかあがらないかのとき、 「すいません、お待たせしました。かき氷買ってきましたよ。それより、今の見ました!? すごいですね! あ、また次が──って、どうしました?」 おつかいを終えて戻ってきたミクは、きょとんとした様子で俺たちを見る。 そのときの俺は、いったいどんな顔をしていただろうか。 少なくとも、紗季奈は──。 「いや、なんでもないよ」 紗季奈は、いつものように笑っていた。
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!

216人が本棚に入れています
本棚に追加