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「やめたって、何──」
「いや、ごめん。ちょっとした独り言だよ。やめたのはね、いろいろあるんだけど」
急におかしなことを言い出す紗季奈に、俺は戸惑うばかり。
何だというのだろう。
だが、当の本人は何故か落ち着かない様子だ。
「えっと、えとね……」
……?
なんだって言うんだ。
確かに普段はお目にかからない格好でいるから、それだけで普段の紗季奈とは違うような感じもするのだが。
今の紗季奈は、それよりまだ違う。
「私ってさ、本当は最低なヤツなんだよ?」
いきなりさらに意味の分からないことを言い出す紗季奈。
お前が最低なら、俺は地下何mくらいだろう。
「でもね、私、諦めきれなかったから。諦めたく──なかったから」
ぽつりぽつりと。
まるで、水が入れ物から少しずつこぼれていくように。
入れ物から、溢れていくように。
言葉を紡ぐ紗季奈。
「これでも私、すっごい悩んだんだよ? 何の比喩でもなく、寝れない日があるくらい」
でも、そうやって紡ぐ紗季奈の言葉は。
少しずつ、少しずつ、決意が滲むようで。
「でも、使い古された表現だけど、自分に嘘はつけないから。自分の大好きな人に、嘘なんてつきたくなかったから──」
だから俺はどうしても。
目も意識も、そらせなくて。
「私はね、こーちゃん──いや、」
・・・・・・
白石光輝くんが。
ドォン!!
その瞬間けたたましいほどの爆音と、僅かに早くに空に散った光が四方に尾を引いていた。
少し遅れて、沸き起こる歓声。
反射的に空を見上げる。
どうやら花火が始まったようだ。
そして、次の花火が上がるかあがらないかのとき、
「すいません、お待たせしました。かき氷買ってきましたよ。それより、今の見ました!? すごいですね! あ、また次が──って、どうしました?」
おつかいを終えて戻ってきたミクは、きょとんとした様子で俺たちを見る。
そのときの俺は、いったいどんな顔をしていただろうか。
少なくとも、紗季奈は──。
「いや、なんでもないよ」
紗季奈は、いつものように笑っていた。
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