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「そうですか? あ、とりあえず、かき氷です」
そう言ってミクは俺たちの前にプラスチックのスプーン型ストローの刺さったかき氷を並べた。
メロンに、ブルーハワイに、イチゴ練乳。
どれも程よく溶け出していて、暑いこんな夜にはとてもそそられる。
「うわー美味しそう! 早速いただくよ」
さっきまでとはまったく違う紗季奈の表情と雰囲気に、少し呆気にとられた。
完全に別人──とまではそりゃいかないにしろ、紗季奈と長い間付き合ってきてここまでの変化は見たことない。
ミクがいるから、だろうか。
だが、何にせよ紗季奈がいつものようにに振る舞っているのだから、俺もいつも通りの自分のように振る舞うしかない。
何も起こらず。
何も無かったかのように。
ミクに隠し事をするようなことになってしまうが、仕方ないか。
「だな。サンキュー」
俺もなるべくいつも通りに言う。
「いえいえ。さ、食べましょ食べましょ! 溶けちゃいますよ!」
紗季奈とミクが丁寧に手を合わせて、いただきます、と言ってから、スプーンで氷を口へと運ぶ。
んー。
この頭がキーンとする感覚がたまらん。
やはりこの感覚はかき氷を食べるうえで必ず味わっておかなければ、と思う。
隣に座るミクの方を見れば、案の定ミクも、
「うー!」
と唸りながら頭をトントンと叩いていた。
どうやらその現象を全く警戒することなく、スプーン山盛りのかき氷を一気に口へとはこんだようだ。
「ま゛、ま゛すだ……あ、頭が……」
よしよし。
心配しなくても、すぐに収まるさ。
「あはは、ミクちゃんはかき氷初めてなんだっけ」
「な、なんですか。皆さんこんな痛みを伴いながらかき氷を食べてらっしゃるんですか……?」
「いやいや、そんな心底信じられないって顔しなくても」
それは一度に大量に食べたミクが悪い、と言ってやりたいが、それはちょっと可哀想な気もする。
痛みっつっても、そんな身を切るようなものではないわけだし。
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