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それは、祭りを堪能した日から明けた次の日。
最早恒例のようになりつつあるかのように家にメシを食いに来た紗季奈が、唐突に言った。
「ミクちゃんってさ、誕生日はいつなの?」
「たんじょーび、ですか?」
首を傾げながら尋ねるミク。
それを見て紗季奈は言う。
「誕生日っていうのはね、つまり『生まれた日』ってことだよ。ミクちゃんがこの世に生を受けた日ってこと」
「生まれた日、ですか」
ミクはうーんと唸るような仕草を取ってから、
「いつなんでしょうか?」
と言った。
そう言えば、俺も特に考えたことはなかったなぁ。
いつだったか、ミクは言っていた。
『マスターがスイッチを入れてくれるまでは、私は意識すらもありませんでした』
『マスターだけは、マスターだって分かったんです』
つまりそう考えると、俺がスイッチを入れた日、つまり7月31日がそのままミクの誕生日になるのではないだろうか。
俺と同じ、誕生日になるということ。
「えー、でもそれじゃあさ」
俺の考えに、紗季奈は不満げな声で真っ先に異を唱えた。
「なんだよ、何か変なとこでもあったか? 妥当だし、順当だろ?」
「いやー、そうなんだけどさぁ。それだとミクちゃんの誕生日のお祝いするのが、約一年後になっちゃうじゃん」
……。
「何を言ってるんだお前は。俺と同じなんだからそんなの当たり前だろ?」
「そう、当たり前だよね。でも、我慢できなくない? それまでさ」
我慢もなにもそうするしかないのだから、どうしようもないと思うが。
そもそも、一年後の誕生日が来るのを我慢した感覚は、俺には無いし。
「んー、じゃあどうすんだよ。他に候補でもあんのか?」
誕生日候補というのも非常におかしな話だが、俺は紗季奈に尋ねる。
すると紗季奈は、
「そうだね……。何かとキリがいいし、8月31日にしない? 今から近いし、こーちゃんとひと月違いで覚えやすいし」
「キリがいいしって、お前なぁ……」
下手をすればこれから一生に関わることかもしれないのに、そんな簡単な動機で決めてもいいのかよ。
まるで、語呂が良いという理由だけで子どもの名前を決めるみたいな。
そんな軽いノリで決めてしまって、いいのだろうか。
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