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「な、なんで泣いてんだよ!? なんか悪いこと言ったか?」
『いや、なんでだろうね。私にもよく分かんないや』
あはは、と紗季奈は涙声混じりで笑う。
いや、そんな軽快に笑われても非常に困る。
困るっていうか、焦る。
電話で話してる相手(しかも女子)が急に泣き出してしまったのだ。
本人は理由も分からないと言って笑っているし。
そんな場面に遭遇すれば、焦って当然である。
今まで紗季奈が、電話口とは言え俺の前でこんな風に簡単に泣いたことあったか?
答えは否。
昨日も言ったが、紗季奈は人との距離感を取るのがうまい。
クラスの連中よりは近いとは言え、俺とならではの距離感を持っているはずなのだ。
そう簡単に涙を見せるなんて。
「ま、まぁ、とりあえず泣くのはよしてくれよ。なんか俺が泣かしたみたいだろ」
『うん、そうだね、ごめんごめん』
相変わらずカラカラと笑うが、ぐすっ、と鼻をすする声も変わらない。
なんだかなぁ。
「お前、最近変わったな。すげーいい意味でさ」
もしかしたらこれは間違いかもしれないが、俺は素直に思ったままを口にした。
変わった訳ではなく、俺が分かっていなかったのかもしれない。
これまでのように。
しかし紗季奈は、その問いに、うーん、と考えてから、
『もしかしたら、そうかもね』
と言って、また笑う。
『でもそう思うんだったら、それはこーちゃんも変わってるんだよ』
「俺が?」
『そうそう。もちろん、それもすごくいい意味でね』
んー。
そうなんだろうか。
まぁでも。
「紗季奈がそう言うのなら、そうなのかもな」
『そうそう。自信持ってね。応援してる人は必ずいるんだから』
「おう。それじゃ、また何かあったら連絡してくれ」
『うん分かった。またね』
そう言って、俺は携帯のボタンを押し通話を切った。
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