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「応援してる人ね……」
自分にそんな人がいるとは、全くもって考えたこと無かった。
俺自身に応援する人がいなかったから、まぁ当たり前といえば当たり前だが。
しかし、今の気分は悪くない。
紗季奈の提案を受けてよかったと、本心から言える。
何度も言うが、紗季奈の意見を尊重したとか、そういうことでは決してない。
あくまでも俺自身が考えて、俺自身が結論を出したんだ。
今後俺は、そういう道に入ることは無いと思う。
親父と向き合うとは決めたが、進路を変えることが出来るとまでは思っていない。
だったらある意味、これは俺の最初の一作であり最後の一作になるだろう。
そんな作品が存在してもいいなら、俺はそれをミクや紗季奈に持っていてもらいたい。
そうすれば、俺は今後も自分を見失うことはないと思う。
少しこじつけじみているが、これが俺が出した答えだ。
しかし曲作りのなんたるかは無知に近いので、これから大変だろうけど、反面楽しみでもある。
ミクがどんな顔するのか、それもまた楽しみだ。
……っと、そういえば、ミクのいる場所を紗季奈に聞けば良かった。
電話の感じでは、そっちにいるような雰囲気は無かったが、もしかしたら何か知っているかもしれない。
まぁ、わざわざ電話する必要も無いだろう。
俺の保護者のような目が無くても大丈夫なほど、ミクも立派なひとりの人間だ。
ガチャッ。
そのとき、玄関の方で、扉の開く音がした。
ほら、思った通りだ。
そんなふうに考えた俺は、そのままリビングのドアが開くのを待つ。
ガチャッ。
再びそんな音がして、ドアが開く。
おかえり、なんていつもの調子で言おうと目を向ける。
だが──。
「な、なんで……!」
おかえり、なんて、言えるわけもない。
そこにいたのは。
「なんだ、私がここにいるのが、そんなにおかしいか。ここは──」
私の家だ。
そこにいたのは紛れもなく、俺の親父。
白石竜造(シライシリュウゾウ)。
それと、後からもう一人がドアをくぐって来た。
・・
いや、性格には、二人だ。
そいつが両手に抱えているのは、他でもない。
まるで、眠っているかのように目を閉じている、ミクだったのだ。
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