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「……っ!?」
予想の遥か上を行く突然の来訪者に、俺は言葉を完全に失っていた。
例年通りなら、親父が前回帰って来たのは4月だったから、少なくとも今から向こう半年間以上は帰って来ないはずだ。
そしてそんな親父だけでも驚いているというのに、挙げ句眠っているようなミクも抱えられて一緒ときた。
もう何が何やら訳が分からない。
「とりあえず、『初音ミク』は二階のベッドに寝かせておいてくれ」
俺が呆気に取られているうちに、親父はミクを抱えているそいつに淡々とした様子で指示を出す。
了解っす、と、軽い感じで答えてから、そいつ階段を昇って行った。
あれ。
ミクと親父にばかり気が行っていたが、あいつ、どこかで……。
「あ……あいつは……」
そうだ。
あれは、祭りの日。
ミクの型抜きを、壊したやつだ。
あのときとは髪型も格好もかなり違うが、目と声が完全に一致している。
ミクの型抜きを壊して。
あろうことかあの紗季奈を黙らせた。
なんであいつが親父と一緒にいるんだ?
最悪のパターンがいくつも脳内を巡る。
どれひとつとしてまともな結論にはならないが、それでも考えが溢れてきて止まらなかった。
口には出したくもない、最悪のパターンばっかり──。
「おい」
ようやく機能を取り戻した口が、言葉を吐く。
『吐く』。
そう、明らかにその言葉は、吐き出していたのだ。
「ミクは、大丈夫なんだろうな」
俺の吐いた言葉にピクッと眉を少ししかめるような反応をしてから、親父は答える。
「あぁ、問題無い。じきに目を覚ます」
ふぅ、と。
とりあえず一安心だ。
頭の熱をを覚ますためにも、もう何回か深呼吸した。
焦るな。
落ち着け。
冷静に。
……よし。
「単刀直入に聞くぞ」
俺はまっすぐに親父を見てから尋ねる。
「なんで、こんな時期に戻ってきた? 普段通りなら、次は春のはずだろう?」
「ここは」
親父も、俺から目をそらさない。
それどころか、こちらを圧倒するかのような威圧感。
「ここは私の家なのだから、いつ帰ろうが私の勝手……では納得せんか?」
「ああ、しないね」
聞かない方が、いい気がした。知らない方が、いい気がした。
しかしもう止まれない。
止まれなかった。
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