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「まぁ、ここまで事態が進んだ以上、隠す気は無い。お前もじきに知ることだ、教えてやろう」
なんだ。
その言い方はまるで。
・・・・・・・・・・・・・
全部水面下で話が進んでいたかのような──。
「な、何の話だよ」
落ち着かせたはずの脳と心臓が、また暴れようとしている。
今度は。
抑えつけることなんか、出来やしなかった。
「『初音ミク』は、私が造った」
口も、耳も。
もうまるっきり仕事をしていなかった。
言っていることが全く理解できない。
脳が拒絶しているような感覚さえあった。
「信じられないといった顔だな。だが、事実だ。私が」
・・・・・・・・・・・・・・・
お前の父親が、初音ミクを造った。
「この際だ、全て教えておいてやろう。後々質問責めにされては迷惑だからな。……っと、冴元」
親父はそう言って、椅子にどっかりと腰掛けて足を組み、二階から降りてきた男の方を見る。
「ご苦労だったな。今日はもういいぞ。また後日、追って連絡する」
「はい、それじゃあ、お疲れ様です」
男はそれだけ言って、俺には一瞥もくれずにリビングを後にした。
それを確認してから、親父は再び口を開く。
「さて、何から話そうか。そうだな……」
「なんで」
親父の言葉を遮るように、俺は言う。
さすがに落ち着いてなどいられない。
思ったままを尋ねるだけで、精一杯だった。
「なんで、ミクをここに送ってきた?」
「簡単なことだ。『監視しやすいから』だ。身内はその点融通が利いて都合がいい」
「何を監視していたんだ?」
「勘違いするなよ。お前のプライベートにはまったくもって興味はない。『初音ミク』がどのように変化、成長しているか、その過程を見ていたのだ」
親父は淡々と答える。
まるでこの問答に意味が無いとでも言わんばかりだ。
気に入らない。
その態度が、気に入らない。
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