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「じゃあ、なぜ俺の誕生日を選んだんだ?」
「それが最も自然だと言われたからだ。まぁ、あんなものを送る時点で自然も何も無いが」
「じゃ、じゃあ!」
自然と口調が強くなる。
これは苛立ちか、それとも他の何かか。
考える余地なんか無かっただけかもしれないが。
「じゃあ、あいつは誰だ。さっきの……冴元とか言ったやつは」
「彼は私の研究チームの一人だ。優秀な心理学者だよ。主に『初音ミク』の感情制御能力とその発達について担当してもらっていた」
「心理学者……? 感情制御能力……?」
「そうだ。本体がロボットでもあれ自体が人工知能を有しているため、特定の部分は人の尺度で測る必要がある。彼には『初音ミク』をロボットとしてではなく一人の人間の観察対象として当たってもらっていた」
なんだこいつは。
わざとやってるのか。
わざと俺を、イライラさせようとしてるのかよ。
さっきから、なんでこう鼻に付くような言い方しかしない。
ミクのことを、モノ扱いしているような話し方しかしない。
「その言い方やめてくれ」
我慢出来ず、俺は言う。
「あれとか被験者とか観察対象とか、そういう言い方やめろ。親父が造ったとかそんなんは関係ねぇ。あいつは──もう立派な人間だぞ」
そうだ。
俺はこの夏休み、あいつと過ごしてきて、それを思い知った。
感情だってある。
思考能力だってある。
今では、自分の判断で行動出来る。
一般的な人に近付いたという意味では、完全記憶能力も薄れつつある。
どう見ても、立派な──。
「人間?」
それを聞いて親父は。
心底信じられないといった風に言う。
不意に、ぞくっ、と悪寒が走った。
だって、この反応は。
・・・・・
「あれが人間? あんなもの、我々が目指していたものじゃない。あれはまだ実験体であり、まだまだあれでは未完成だ」
なんだそれ。
やめろ。
それ以上は言うな。
「……まだ、帰ってきた理由を話していなかったな」
言うな。
何も言うな。
黙れ。
黙れよ。
黙ってくれ。
お願いだから。
頼むから──!
「黙れよ!」
「回収だよ」
俺の怒号を意にも介さず、親父は。
淡々と喋るのだった。
「『初音ミク』の回収、及び廃棄のためだ」
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