フィクション･ドリーム

アナザー･マイホーム

小一時間ほど歩いただろうか。

確かにこの町は僕が生まれ育った『あの町』なのだが、どこか雰囲気が違う。

見慣れた駅前、昔よく通った駄菓子屋、少年時代を過ごした母校…どれも僕の頭の中に残る景色と何ら変わらない。

でも、決して懐かしいあの頃の空気はそこに存在しないのだ。

そんな違和感を抱きつつ彷徨っていると、不意に雨が降り出した。

とても冷たい雨。

本降りになる前に帰らなければと思い、足早に家路を急ぐ。

瞬く間に強さを増す雨は、言葉では言い表わせないもの悲しさを僕に与えてくる。

無性に家へ帰りたい気持ちでいっぱいだ。

あぁ、帰りたい…早く帰りたい…。