生きているけど死んでいた

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蝉も暑すぎて死ぬんじゃないかと思うほど、太陽が本気を出しているトゥルーサマーデイ。 真夏日。 汗を拭って歩く人間たちを俯瞰しながら、俺はあまり柔らかくない真っ白なベッドに座っていた。 ちなみに、俺のいる部屋には文明の利器・クーラーが備え付けられていて、いまはフル稼働中だ。ガンガン効いている。おかげで暑さとは無縁だ。 「フハハハハハハ!!蟻ども。猛暑の中ご苦労なことだ。せいぜい頑張れ、俺は勝ち組だ!」 俺は眼下の雑踏に、傲岸不遜失礼千万な嘲りを投げかける。 アホかお前は!・・・・・・と突っ込んでくれるような奴はいない。 そもそも、部屋には俺以外誰もいないのだ。ネズミ一匹いやしない。 無生物だらけの部屋を眺める。 調度品と呼べる代物は皆無。 白いベッドと白いカーテンがいくつかと、テレビが二台あるだけだ。 ・・・俺がいるこの部屋は、 街中にある私立病院の、数ある集団病室の一つである。 部屋に二台あるテレビのうちの片方が、ある健康啓発番組の再放送を流している。 「そのまま放っておくと・・・」 が、その番組の決まり文句だ。 ・・・病院で流すには、やや皮肉の効きすぎた番組である気がするのであるが。 「それではレッドゾーンの発表です・・・」 その言葉を皮切りに、出演している芸能人の健康・不健康が峻別される。 以前はもうちょっとハラハラしながらこのシーンを眺めていた気がするのだが、今じゃさっぱり緊張感が沸いて来ない。 「俺がこの番組出たら、レッドゾーン確定だもんな」 カハハハと渇いた笑いを漏らす。
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