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「同族の情けだ。最後に言い残すことはあるか?」
話を続けることなく大剣を両手で構え直し、立ち尽くすイヴに剣先を向ける。
何も出来ずただ生かされていることに、悔しさからか拳を強く握り唇を噛み締めていた。
「なんもねぇのか?」
「……あの方に」
「あぁ?」
同じ事を聞き直して、ようやく口を開いたイヴにの言葉に耳を傾けるが、下を向いて話す言葉はいくら近いとはいえ聞き取りにくい。
荒い言葉を龍鳳が吐くと、イヴは強い決意を秘めた瞳で見つめてくる。
「あの方に感謝の言葉を……ありがとうの一言を伝えてもらえれば十分です」
「はぁ? ちっ、分かったよ。会ったら伝えてやる」
自分の主張だけ話し終えると、イヴは目を閉じる。
龍鳳の返した言葉に満足したのか、その表情は今から消えゆく者とは思えない穏やかな、優しい表情だった。
その端正な顔立ちも表情のせいか、より輝いているように見えた。
「じゃあな。楽しかったぜ……イヴ」
躊躇う事なく大剣を胸に突き刺す。
貫かれた傷から血が流れ出すことはなかったが、そこを中心としてイヴの体が崩れていき、風に舞うようにその姿を消す。
「伝わらねぇ想いだろうが……約束は守るぜ」
龍鳳は完全にイヴが消えた後、一度も振り返る事なくその場所を離れる。
地面に突き刺さったままの大剣をイヴの墓標としたためか、龍鳳が回収することはなく、ただ同じ場所を示し続けていた。
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