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「がはっ……。ごほっ……」
カイルの吐血の量は、一瞬嘔吐したのかと勘違いさせるほどのものだった。
男の傷からの出血と重なった血の池は、しかしながらその血のほとんどはカイルのものが占めている。
「ふん、貴様も……その程度だったか」
「ぐっ……」
倒れ込むカイルに先程までのような狂気はなくなり、何度も咳込みながら――その度に血を吐き、まともに起き上がることさえ出来ない――立ち上がる男を目だけで追う。
今のカイルに細かい所まで観察出来る余裕はなかった。
それでも、抉られた傷の周りについたいくつもの土が見えると、流石に目を見開く。
「ふん、あちらは捕えられたか。情けない、重役に就くと口ばかりが達者になるな」
元いた場所を一瞥すると、軽く溜息をつきながら肩をすくめる。
その、全てを見下したような目には何の感情も込もっておらず、ただの確認ともとれた。
「その前に……貴様だ!!」
「がはっ!! うぅ……」
すぐにカイルへと視線を戻すと力強く足蹴にする。
何とか目だけを動かしているカイルに抗う術はなく、一気に二、三メートルの距離を転がっていく。
「安心しろ。ここら一帯を全て消し去るからな。苦しむ必要はない」
(……一帯? 向こうには委員会のメンバーもいるはずじゃ……)
目を凝らして見ようとするが、向こうの状況は当然見えるわけもなく、何とか見ようとするあまりにも不自然な格好だけが残る。
男は頭の回転も人一倍早いのか、それだけで全てを悟り、特別感情の込められていない声で話し続ける。
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