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カイルの技は、龍鳳が使ったそれとは全く比較にならない程、小さなものだった。
左手の手首から先が黒く変色していくだけという事実だけで、その規模の違いは明らかだ。
「はぁ……はぁ……」
意識が朦朧とする中、カイルは最後の力を振り絞って前へと跳ぶ。
跳び方も、体勢も目茶苦茶なものだったが、突き出した左手だけが意志を持つかのように魔法陣に吸い込まれていく。
「くっ……く、そっ!!」
ぶつかり合う二つだが、圧倒的に片方の力が押し返されていた。
カイルの左手は、中心に届き魔法陣を破壊するどころか、弾き返されるのを必死で堪えるだけで精一杯だった。
弾き返されてしまえば、次はない。
そんな力など、残されてはいない。
「ここで……ここで勝てなきゃ意味ないんだよ!! 皆を守りたいんだ!!」
自分を奮い立たせ、必死に魔法陣と向き合うカイル。
その声は、誰かに向けたものではなく、自分への言葉。
そして、自分の体に住むもう一人への言葉。
「一回でいい、一瞬でいい。あいつらを、俺の友達を助けてくれよ!!」
左手に集まる力が弱まっていくのが感じるまでもなく、見て取れた。
しかしそれでも、カイルが目を閉じることはない。
(……トモダチ、いい響きだ)
自分の中に住む魔物は、それでも自分自身なのだ。
自分を信じない者に、信じれるものなど何一つない。
「うおぉぉぉぉおお!!」
左手の先が、ほんの少しだけ、でも、確実に中心へと届いた。
カイルが意識を失う直前、小さな音が耳に入ってきた。
小さな音だったが、カイルの望んだものがそこには確かにあった。
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