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聞こえてきた会話に、思わず足を止める。 声の方向には園山先生と数人の女子。今、園山先生に乱暴に頭を撫でられたのが中村アキ、あの日、あたしの目がしっかりと捉えてしまった少女だ。 再びあの光景を見てしまったわけではないのに、必死に何度も言い聞かせてきたことが、一瞬にして崩れ落ちていく気がした。 「あ、友倉さん。こんにちは」 唐突に名前を呼ばれ、あたしは間抜けに返事をする。それを見て園山先生が笑い、中村アキが不満げに口を尖(とが)らせた。 違うクラスのくせに、馴れ馴れしくするなよ。そんな風に言われている気がして、あたしは逃げるようにしてその場を去った。 今は廊下で擦れ違うときに挨拶をする程度だが、もしも彼の言う通り、来年度の担任が園山先生になったら、私には平然を装い続ける自信がない。 あと半年の間に忘れてしまえるだろうか。忘れることが出来なかった場合、私は園山先生に何を言うのだろう。
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